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Inscriptus

用途の決まっていない砂時計のシリーズ

豆を挽くコーヒーミル。ロウソクの紐切りばさみ。ハロウィーンのカボチャを彫るカーヴィングナイフ…。こういったプロダクトは、特定の用途にはとても便利だが、それゆえに他の活躍の場は全くなかったり、嵩張ってしまったりする。でもだからこそ不思議な愛着が沸き、大事に使いたくなるものでもある。これを逆に捉え、プロダクトの用途を敢えて開いてみることで、新しい価値、愉しみ方が生まれるのではないだろうか、と考えました。

Inscriptusは砂時計のシリーズです。時計といっても、時間を計るためのものではありません。時をゆっくりと過ごすための舞台装置のようなものです。だから、決まった使い方というものは定められていません。Inscriptusとは、ラテン語で「書かれていない」を意味します。この時計を、思い思いの方法で楽しんでほしい。自らのために持っても、ギフトにしても、よいのです。

少しずつ落ちる砂を見つめていると、うっかり時間を忘れてしまいます。時計という道具の本来の役割とは相反しますが、そのような時間を過ごすことは、生活のなかの宝物を見つけるようなものです。一瞬一瞬、同じような砂粒のなかに、輝く石をひとつ見出すようなものです。

今日、何度時計に目をやっただろうか。一分一秒のリズムで、社会との足並みを揃える。待ち合わせのため、締め切りのため。そんな慌ただしさのなかでも、夜遅く家に帰ったときに、もしくは一週間の終わりに、すこし呼吸を置くタイミングで使う、「時を忘れるための時計」があってもよいのでは、と思います。特定の用途を持たないからこそ、人によって様様な愉しみ方のある、「開いた用途のプロダクト」として機能すれば良いと考えています。

Inscriptusは、Takramのプロジェクトでもあり、同時にifs未来研が掲げる「不便だけれど快適なもの」という研究テーマに沿った成果発表という側面も持っています。

3つの砂時計

大地のスカラベ、空の虹

スカラベブルーとイリゼルビーの指輪

砂時計の両端に一つずつバカラのリングが封じ込められています。上の部屋から砂が落ち、一方の指輪が少しずつあらわになると、下では他方が隠れていきます。同時に全てを見ることはできない、一対の石。スカラベとは地を歩くタマオシコガネのことで、古代エジプトでは神聖視されていました。一方イリゼとは空に浮かぶ虹を意味します。時計を傾けるごとに「大地」と「空」が寄せては返す、地平線。そこで揺れる、きわの模様。

ある女性はこれを見て「娘にプレゼントしたい。大人になるまでゆっくり、節目ごとに時計を傾ける。成人するときになかを取り出して、親子で使うのはどうかしら」と言いました。

夕暮れ

夕暮れの空模様を映し出す二色の砂

柔らかな橙と水色の砂は、東京の夕焼け空を映したものです。比重の異なる二種類の砂が封じ込められています。二つの色は、落下の瞬間分離し、模様を描きます。重い砂は中心に、軽い砂は周辺に落ちます。逆さにすると二色は混じりあい、混沌を生見出します。しかし落下すると、またそこで二つに色を分つのです。

この二色は、Andaz Tokyoのルーフトップから見下ろした、ある日の夕焼けから採ったものです。記憶に残したい日の空が、誰しもあるでしょう。世界中、いろいろな場所で、いろいろな季節の夕日の色を、砂時計のかたちで残しておきたいのです。

完成と途上

加工された宝石と、掘り出されたままの原石

薔薇の色に染まった水晶はローズクォーツと呼ばれているます。時計の一方には丸く磨かれた石を、もう一方には結晶型の原石を収めました。ローズクォーツは「アフロディーテの石」の名も持ちます。「ヴィーナス」としても知られるこの愛と美の女神は、生まれた瞬間から成熟した女性の姿であったといいます。透明なクリスタルが、彼女の吐息に染まりバラ色に色づいたそうです。

逆さにする度に、成熟と未熟を、つまり完成のかたちと途上のかたちを行き来します。クォーツは、正確な時計の振動子として広く用いられますが、ここでは敢えて時を計ることと無縁の役割を与えました。

About

Inscriptusシリーズは各所を巡回しています。2014年7月、東京・青山のWORK WORK SHOPにて開催されたifs未来研究所「第1回研究発表展」を皮切りに、同9月より東京・白山のアートギャラリーWALLS TOKYOでの「デザインの中のアート」展を初め、今後も海外を含め展示を続けることが予定されています。

Team

Art Direction & Creative Direction:
Kotaro Watanabe
Support:

Isamu Okuda (ex-Takram)

Rings:

Baccarat Pacific K.K.

Special Thanks:

Mr. Hiroshi OGAWA

,

Ms. Sayori IWATA

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