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Storyweaving Workshop #2, FLOWER

プロフェッショナルデザイナー向けのクリエイティブワークショップ

ストーリー・ウィービングとは、Takram が様々な商品開発プロジェクトやデザイン・エンジニアリングに関わるプロジェクトを通して導き出したクリエイティブ・プロセスで、「プロジェクトの初期に設定したコンセプトをその後も柔軟に練り直し続け、よりよいものに洗練させていく」手法です。デザインや商品開発に関わる人のみならず、より広い意味で「ものづくり」に携わる人々、つまりプロジェクトの実現やプロデュースに関わるいろいろな分野の人々に役立ててほしいと考えています。

TakramDMN(ダイヤモンド・デザインマネジメント・ネットワーク)に参加する企業デザイナーやエンジニアと、この新しい手法を体験するための『「ものづくり」と「ものがたり」のワークショップ』をシリーズ展開しています。

第2回目となる今回は、前回同様にTakramが提唱する「ものづくり」と「ものがたり」の両立によるクリエイティブ・プロセスの解説、そしてそれを体験するためのワークショプの構成で2012年〜2013年にわたって開催されました。

テーマ: Flower

今回のワークショップは、テーマとして「花」を掲げました。なんらかの社会課題を解決するプロダクトの提案を、「花」をモチーフに行う。各チーム、独自の切り口から8つの作品が生まれました。

花びらの投票箱

投票率が低迷しています。背景には、政治への関心・信頼の揺らぎがあります。より多くの人が政治に興味を持ち、選挙会場に足を運んでもらうために、デザイナーは何ができるでしょうか。

春にもしも、家の郵便ポストに届く投票用紙が、桜の花びらの形をしていたら。小さな歓びから、投票所へ出かける気持ちを少し盛り上げることができるかもしれない。投票日が近づくごとに赤味を増す紙。そしてもしも、会場の投票箱がガラス張りになっていたら。透明なガラスは「政治の透明性」を表現しています。

ガラスの箱に用紙を挿入する際、装置により記入内容がスキャンされ、デジタルデータとして蓄積される。同時に熱処理により文字は消され、ガラスの外からは文字は判読できなくなる、という想定をしました。

多くの人が選挙や政治に興味を持ち、投票所へ足を運ぶためのきっかけを作る。投票数が増えるほどに、桜の花びらが積み重なっていく様子が見えるでしょう。「皆で社会を作り上げる」という実感にも繋がる、新たな選挙行為のデザインです。

安心の贈りもの

3.11の震災以後、防災意識は確実に高まっています。それでも、自宅に防災用品を一式揃えている人は、実は稀なようです。日々の忙しさの中で、自ら買い揃えることを先延ばしにしてしまいます。

でも家族や恋人、親友といった大切な人のことを考えると「もしもの時のために持っていてほしい」と感じるのは、至って自然なことでしょう。

防災を「贈る」ことができたら。そんな想いから生まれたのが、この種型のキーホールダーです。普段は鍵やカバンにつけて持ち歩くアクセサリー。しかし非常時には種の「殻」を破ることができる。中には、オフィスや学校など、日々過ごす場所から自宅まで歩いて帰るための道順が印刷された「手ぬぐい」が収まっている。圧縮された手ぬぐいが、花びらが開くように広がります。

非常時の帰宅地図として使えるのはもちろん、危険な場所や給水所の記載もあります。手ぬぐいだから、非常用の包帯としても活用できるでしょう。「自ら備える」以外の、「大切な人への想いやり」を映すことのできる防災対策。安心のギフトを贈る、という新たな価値文化の提案です。

1/133の蜂蜜瓶

花は、花粉を運んでもらう代わりに、蜂に蜜を差し出す。人が花束に感謝の気持ちを込めて贈るように、花もまた、自らの感謝を蜜に込めているのかもしれません。

アフリカはマラウイ共和国でとれたフェアトレードのハチミツ。このプロダクトは、そのリフィル用ボトルです。世界最貧国の一つであるマラウイ共和国の一人当たりのGDPは、日本の1/133しかありません。それを示すように、このボトルに付属するスプーン1杯は、ボトル全体の容量のちょうど1/133を掬います。

フェアトレードの枠組みでつくられた食品の生産や購入は、社会の格差をリバランスする取り組みであり、また相互の「贈り物の交換」でもあります。食べ終わったあとは、ボトルを店頭に持ち込めば、リフィルしてもらうことができます。すると透明なボトルに「花束の贈り物」が再び浮かび上がるのです。

生産者と消費者の間にある格差は、日々の意識と積み重ねによって、わずかながらも埋められていくでしょう。このボトルを使い続けることで、その意識を忘れないようにすることができるでしょう。

注射のオブラート

病院の匂い。遠くの泣き声。たくし上げた袖の先で腕に触れる、冷たい消毒液。肌に近づく注射針ー。

注射は、大人にとっては一瞬のことでも、子供にとっては一大事。針の痛みはもちろん、細かな不安の連鎖が、次第に恐怖心をエスカレートさせます。この恐怖心をどのように和らげられるかは、小児医療の現場で最も苦心することのひとつだといいます。

「注射のオブラート」は、予防接種用のサポートシール。消毒・鎮痛作用成分を含んだこのアクアゲルシールは、消毒・ 緩衝・止血・保護の四つの機能を持ちます。そして何より、注射への恐怖心を和らげます。

まず腕に貼付し消毒、シールの上から微細針を貫通させ、注射。肌に針が刺さる様子を隠し、視覚的・心理的なオブラートとなります。接種部位を指で押さえると、体温と圧力により白濁します。傷の修復を助ながら、視覚的に覆い隠す。このシールはしばらくの間、子供の頑張りを小さく称える「ご褒美」として肌の上に佇む。 数時間後、役割を終えた花弁は静かに色をくすませ、傷とともに消えていきます。注射の痛みの記憶もまたやわらげながら。

届く先の募金箱

小さな頃、学校に設置されていた募金箱。クラスをあげて一生懸命に小銭を集め、会ったこともない遠く離れた地に住む人を、募金を通して励ました…そんな記憶は、多くの人にあるのではないでしょうか。

駅や学校など、街中のいたるところで見かけた募金箱。余った小銭をポケットから取り出す、半ば無意識の行為が募金を支えていました。そして小銭が箱の底に落ちる音やその重量感も、身体性を伴う体験として、かたちのない「手応え」になっていました。でも電子マネーの隆盛によって、募金箱もその体験も、徐々に失われつつあります。

このプロダクトは、電子マネー時代の募金箱の提案です。レジ周りに設置された箱にカードをかざすと、買い物の端数の差額をそのまま募金できます。その瞬間、箱の中で光が灯り、花びらがひらひらと降り注ぐ。実感の沸きづらい電子マネー募金を目に見えるようにし、物理的な効果で、コインとは別の手応えを提供するのです。

光で灯される盲導犬は、募金が届く先を伝えている。そこに訪れるであろう明るい未来を楽しんでいるようにも見えます。この箱は、募金によって人の心の中にもかたちのない花を咲かすのかもしれません。

親子とドクターのスタンプ

体調を崩した時、病院に行くべきか、家で経過を見るべきか。大人は自分で判断できるけど、子どもの場合は難しい。自分の症状が上手に表現できないから、回復しているのか悪化しているのか、そしていつドクターにかかるべきか、分からない。いざというときに病院やクリニックは予約でいっぱい、ということも、ままあります。

そんなときこのスタンプを子どもの腕に押す。示温インクを含むため、体温や体調に合わせて色や絵柄が変化する。親はこの絵柄をスマートフォンで撮影すると、子供の体調を知ることができるのです。色が薄ければ自宅で安静に。濃い色が現れたら、アプリから絵柄をドクターに送信し、直接アドバイスを受けたり、受診のアポイントメントを取り付けることができます。

花柄のスタンプには、体調を崩している子供の気分を和ませる効果もあります。親もまた、無用な不安を払拭でき、冷静な判断を下すことができます。さらには、慢性的な小児科医師不足に苦しむ医療の現場の負担を軽減することにも繋がるでしょう。このシステムは、子ども、親、医師、三者のストレスを軽減し、コミュニケーションを円滑にするのです。

押し花の体重計

本を開き、昔はさんだ押し花を見つけると、嬉しくなる。花を摘んだそのときの喜びが、ページの隙間からありありと蘇る。お気に入りの花の美しい瞬間を切り取ることは、周囲の出来事や記憶をも、一緒に留めてくれます。

子供が日々すくすくと育つ中で残す、様々な「あと」。押し花のように、子供の成長の「足あと」を、節目の軌跡として刻むことはできないか。この体重計は、家族全員の体重の変遷と共に、足形を記録します。天面はディスプレイも兼ねており、足形のほか成長グラフを表示します。

誕生日には、成長記録が自動的に浮かび上がる。せいくらべのように、家族みんなで成長を眺めるのです。他にも、足のサイズが生まれた日の倍になった日。パパの半分にまで成長した日。あの時のお兄ちゃんに追いついた日。そんな特別な節目にも、自動的に足あとを比較して見せてくれます。

切り取った成長の断片は、押し花のように、日々記録され、重なっていく。振り返るたび、そしてこれからの成長を願うたび、家族の会話も厚みを増していくでしょう。

散り際のペットボトル

潔い落花を見せる椿。微風の中に散る桜。咲き誇る花々は美しいけれど、人はその散り際にまでも、美を見出す。地に落ちた花びらは、朽ちて自然に還っていく。

散る美しさ、その儚さ。人が「ゴミ」を捨てる際にも、どうにかその散り際の美を見いだすことはできないか。大量生産と消費の結果生じる、大量の廃棄物。年々増え続けるゴミに対して、決して大きく上がることのないリサイクル率。社会が生み出すゴミのうち、一部でも「美しく捨てる」ことができれば…。

このペットボトルは、飲んでいるときの美しさではなく、捨てるときの美しさを主眼にデザインされました。飲み終わった後にボトルを潰すと、そのシルエットは一輪の花のように形を変えます。人の生み出すゴミに、一抹の散り際の美を添えるのです。

容器を潰してから捨てることで、ゴミの体積は小さくなり、運搬や廃棄の効率が上がります。しかしそれ以上に、捨てる間際が最も美しく彩られる容器である点に、大きな問題提起が込められています。普段は無意識であった「捨てる」行為にこそ、人の注意が求められています。そのような意識の変化を、日々の生活をきっかけに与えたいのです。

Team

Production:

Diamond Design Management Network

Planning & Creative Direction:
Kotaro Watanabe, Kinya Tagawa
Photograph:

Takashi Mochizuki

,

Takram

Art Direction & Photography:

Tomoko Tanabe

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