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Better Decisions with Lean Data

健康領域におけるリーンデータの可能性とデザイン

インターネットに繋がる物がパソコンと携帯電話だけだった頃、私たちは自らの健康状態について十分に把握できておらず、健康のために出来ることも限られていました。近年、スマートデバイスやIoT技術が発達したことにより、自分達の身体について得られる情報量は飛躍的に増加しました。ところが一方で、私たちは大量のデータに囚われてしまい、そもそも何のために、どのように健康でありたいか、を見失いつつあります。

例えば、ヘルストラッカーやスマート体重計などのヘルスケアデバイスは歩数や体脂肪を計ったり、睡眠が十分かを教えてくれたり、私たちの健康を様々な形でサポートしてくれます。しかし、これらのデータが実際に私たちの生活や健康、ひいては私たちの理想とする生き方にとってどのような意味を持つかを示せたとき、データはただの数字やグラフではなく、ユーザにとって真に有意義なものになるのではないでしょうか。

最も代表的なヘルスケアデバイスといえば、体重計です。近年の体重計は体重だけでなく、筋肉量や体脂肪率、骨量や体水分などの体組成まで計測し、その遷移を教えてくれます。しかし、各ユーザがどのような人物か、どのような生活を送っているかの理解が無ければ、これらの数字は意味を持ちません。例えば、活発に運動をしている人にとって体重が減る、というのは必ずしも好ましいことではありません。

サイクリングの場合、自分の体重が軽ければ走行スピードが速い、というわけではなく、参加するレースの種類、目標などに合わせてパワーと体重のバランスをとることが重要になります。そのためにはシーズンを通して、各レースに合わせた練習計画とバランスのとれた栄養摂取や水分補給が欠かせません。

また、サイクリングは通勤のために毎日自転車に乗る人から、週末の息抜きがわりに郊外でサイクリングを嗜む人まで、さまざまな競技レベルの人が混在するスポーツでもあります。

現在、サイクリングは世界でも最もデータ化が進んでいるスポーツの一つです。サイクリングが特殊なのは、初心者であっても、プロと同じトラッキングデバイスを入手可能である点です。特にパフォーマンス向上のためにトレーニングをしているサイクリストにとっては従来感覚的に行ってきたトレーニングが明確に数値化されることで、より効率的に練習ができるため、トラッキングデバイスを導入している人は少なくありません。しかし、プロの競技者には収集されたデータを分析してくれるコーチやアナリストがいるのに対し、アマチュアの競技者は大量のデータを自分で見直すしかありません。結果、自分の練習を補強するためにデータを使うのでなく、データの収集自体が目的になってしまうことがあります。また「Strava」のように、自分の競技記録を管理するだけでなく、それをシェアできるようなプラットフォームも広まりつつあり、データを記録すること自体が目的になってしまうサイクリストは今後ますます増えることでしょう。

データに翻弄されず、賢く健康について考えるには?

Takramでは「Open call」と呼ばれる短期の社内R&Dプロジェクトを実施しています。オープンコールでは、少数のメンバーが集まり、テーマについてリサーチ・議論しながら、新しい技術やアイディアを盛り込んだ提案をします。第一弾となる今回のプロジェクトでは、スポーツの文脈において私たちがどのようにデータと向き合えるかを考えました。サイクリングを事例に、私たちとスマートデバイスの付き合い方を変えるようなプロダクトのコンセプトを提案することを目標としました。

最初に取り組んだのは、サイクリストたちがどのようなモチベーションや目標を持っていて、何が彼らにとって妨げとなっているかをリサーチすることです。様々なレベルのサイクリストにインタビューをし、彼らがどのようにトレーニングしたり、健康管理を行っているかを調査しました。インタビューを始めてすぐ、全員が納得できる単一のソリューションは無いということが分かりました。皆、目指している目標が異なるだけではなく、そもそも自転車に乗る理由も違うのです。健康と競技レベルの向上のために乗る人もいれば、他のサイクリストとの交流のために乗る人も、サイクリング後のコーヒーとケーキを楽しみに乗る人もいました。

インタビューと並行し、自分たちでも現在入手可能なデバイスやアプリ、サービスを実際に試してみました。そこで分かったのは、これらのデバイスはユーザが望めば1日24時間ずっと健康状態をモニタリングすることが可能であるということです。

しかし、これらのデータの情報はあくまで私たちの健康のひとつの側面、断片的なものにすぎず、むしろ全体像を捉える際の弊害になり得ます。そこで、デザインにあたってはデータの活用方法自体を考え直す必要がある、という気付きがありました。

リーンデータを考えるケーススタディとして

最終的な提案は『OTO』(オト)と名付けました。OTOは、サイクリストの健康をさまざまな側面から総合的に考えるヘルスプラットフォームです。現在多く見られる、大量のデータを提示するデバイスではなく、目的に合わせて厳選された「リーンデータ」をもとに、私たちにとって意味のある情報を提供し、サイクリング中も、そうでないときも、ユーザの健康を考える補助具となることを目指します。

出発点として、ヘルスケア製品として馴染み深い体重計を考え直すところから始めました。例えば、OTOは通常の体重計と同じ体組成分析は行いつつも、それを数字ではなく、ビジュアルとして表示します。体組成だけでなく、ヘルストラッカー、天候、練習計画など、さまざまな情報を統合しつつ、よりユーザに寄り添うデータのあり方を考えています。

天気情報を統合することでユーザの準備の手助けします

ユーザが今どこにいるか、分かりやすく家族に伝えます

サイクリング後の栄養摂取・水分補給のアドバイスをくれます

Project Film

Takramでは、デザインはリサーチの段階から始まっていると考えます。そのため、インサイトをシェアすること、初期のアイデアを形にしておくことは重要です。OTOにおける私たちのプロセスをシェアするために、映像を制作しました。

今回のリサーチやデザインを進める過程で、ここでお見せしたものに留まらず、私たちのデータとの付き合い方を考え直すインタフェースには、多くの可能性が感じられました。スポーツやサイクリングだけでない他の分野においても、データを収集・表示するだけでない新たな可能性を探る余地があるでしょう。

Team

Concept & Design:

Lukas Franciszkiewicz (ex-Takram)

,

Maki Ota (ex-Takram)

, Jonathan Nesci (ex-Takram)
Film:

Sam Campbell

Cyclists:

Iancu Barbărasă

,

Rebecca Loaiza

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