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Creative Collision

招待制ディナーイベントのクリエイティブディレクション

「兄弟達よ、集まりたまえ、わたしはいま夜空の星々を飲んでいる!」17世紀、修道士ドン・ペリニヨンが偶然シャンパンを発明し、初めて味わった時に、こう叫んだと言われています。

Takramのディレクター・デザインエンジニアである渡邉は、Dom Pérignonによる招待制ディナーイベント「Creative Collision」のクリエイティブチームの一員として、イベント全体のクリエイティブ・ディレクションを行いました。イベント全体を貫くストーリー、哲学、UX(イベントフロー、空間・照明計画、BGMなど)のあり方を提案・構築し、企画からオペレーションまでを、チームと協力のもと行いました。

さらに、同じくディレクター・デザインエンジニアの緒方は、自身が開発したOn the Fly systemによる、Dom Pérignonのためのインタラクティブ・コンテンツのデザイン・実装を行い、イベントの中のキー・コンテンツとして用いることで、ゲストの方々に一晩限りの夢のような体験を提供しました。

クリエイティブチームの結成

Dom Pérignonは毎年、Power of Creationをテーマに、アーティストとのコラボレーションによる活動を展開しています。2013年はニューヨークをベースに活躍する現代アーティストJeff Koons氏とのコラボレーションが軸となっており、Koons氏は”Balloon Venus for Dom Pérignon”というボトルコンテナ型の彫刻作品を発表しました。

当初からMHDは、Jeff KoonsによるBaloon Venusのお披露目、および2003年のRoseのお披露目を東京で行うにあたり、50名程度のゲストを招待するディナーイベントを構想していました。このイベントの企画、内容の精緻化、運営を担当するべく、Amano Creative Studio, A4ATakramの三社によるコラボラティブ・クリエイティブ・チームが結成されました。

ACSは主に全体プロデュース、ゲストコーディネーションとオペレーションを、A4Aは空間の設計、施工、進行管理を、Takramは全体のクリエイティブディレクションとOn the Fly systemによるコンテンツの制作・展示を行いました。On the Flyは、参加者を迎えるためのウェルカムメッセージの表示や、シャンパンを思わせる泡のインタラクション、Dom PérignonJeff Koonsのクリエイティビティを伝えるためのコンテンツ紹介の為に、今回特別な企画・デザイン・実装を行いました。

ストーリー・ウィーヴィング:イベントの哲学と「コリジョン」の物語

Takramはプロジェクトの初期、まだイベントの進行や空間の構成を決定する前の段階で参加し、MHDやクリエイティブチームとの対話の中で、全体コンセプトや哲学を編み上げていく「ストーリー・ウィーヴィング」を行いました。Takramは、Dom Pérignon自身のブランドDNAを構成するキーフレーズの一つ「Creative Collision」に注目し、それを本イベントでの体験全体に通底させる思想とすることを提案しました。「Collision」とは、二つの要素が衝突することによって生じる新たな可能性を象徴しています。

このCollisionには様々な側面があります。各界の著名人が集まり、その場限りの一期一会を楽しむこと、つまり参加者同士のコリジョン。出会いのタイミングで交わされるシャンパングラス同士のコリジョン。シャンパンの中の泡と泡のコリジョン。そして新旧のコリジョン、つまりDom Pérignonの長い歴史や伝統の「旧」と、毎年先端のアーティストとコラボレーションを行いクリエイティビティを世の中を伝える「新」、など…。枚挙に暇がありません。

コリジョン:「シャンパンの泡」の科学

ジェラール・リジェ・ベレール氏による「シャンパン 泡の科学」によると、シャンパングラスの底で発生した泡は、液体の中を上昇する約10cmの旅路の中で、過剰な泡を集めながら大きくなり、液面に到達する頃には、なんと100万倍もの体積を得るとのことです。泡は主に二酸化炭素によってできていますが、この気体の中に、シャンパンを香り豊かにする30種類もの化学物質が含まれているということが、2009年に全米科学アカデミーの会報に発表された研究によって分かっています。

泡は、衝突により次第に大きくなり、芳醇な香りを醸し出す…。ボトルというクリエイティビティの結晶の中で生まれた泡。そのコリジョンによって、味わい深いシャンパンが作られています。旅路の中で衝突することで大きく成長する泡の様子は、「出会い」によってチャンスが増幅する、人と人とのコリジョンにもまた似ています。これを、イベントの抽象的な側面のみならず、空間のデザイン、イベントのフロー、席順や案内システムにまで反映させるべく、企画を精緻化させていきました。

空間デザイン:バルーンヴィーナスの彫刻の内部

空間デザインのモチーフはバルーンヴィーナスの彫刻そのものです。丸みを帯びた女性的なフォルム、包容感を最大限強調する構成となるよう、彫刻の内部のような、ミステリアスで重層的な空間を設計しました。空間にいる人たちがこの場所で出会い、クリエイティブなコリジョンを経ることで、ある種のルネサンス、つまり生まれ変わりを経験する…というストーリーを描いています。

天井からレイヤー上に連なっているのは「オーガンジー」と呼ばれる、薄く透明な質感を持った光沢質の布です。これを重層的に配置し、起伏を持った空間構成を作り出しています。会場である表参道スペースOは天井が高く広々としており、50人のディナーにはやや大きすぎるかとも思われましたが、この起伏が部屋に適度な居心地の良さを与えています。

「内側になにかを湛える」丸みを持ったこの空間は、象徴的な繭としての意味を帯びています。ゲストが「彫刻の中」を体験するという解釈の他に、ワイン樽の中、そしてシャンパーニュボトルの中を体験している、という解釈も可能でしょう。丸の中での出会いは、瓶内での泡同士のぶつかり合いです。象徴的なアッサンブラージュ、熟成、瓶内発酵…。この空間において、ゲスト達はある種の「進化・成長」を体感する、というストーリーです。部屋の中央に配置され、ひと際眩しい照明を受けとめているのがバルーンヴィーナスです。ニコライバーグマンによるグリーンプラントは、ディナーテーブル上の装花だけでなく、このヴィーナスの土台にも用いられています。

二度と無い体験:「On the Fly」と紅潮する空間によるエンターテイメント

19時にゲストは表参道ヒルズの地下、スペースOに集まりました。まずBarエリアにて食前酒となるDom Pérignonを楽しみ、その後ディナールームに入るべく、トンネルをくぐります。ゲストが一様に手にしているのは、Dom Pérignonのシールドの形でできたインビテーションカードです。予めゲストに宛てて送られたカードは、実は一つ一つが僅かに異なるものとなっています。

ディナールームで迎えるのは、On the Flyのテーブルです。ここにインビテーションカードを置くと、インビテーションカードから沸き立つように無数のバブルが浮かび上がります。それと同時に、ウェルカムメッセージがゲスト本人の名前とともに表示されるのです。更に、ゲストの席の方向を示すアニメーションがテーブルの上に描かれます。一見、何の変哲も無い一枚のカードから生じる、魔法のような体験…。ゲストは皆笑顔と驚きを隠せない様子で、それぞれの席に向かいました。上を見ると、何層にも重ねられたカーテンは、緑色に染まっています。

全員が着座した後、ホステスであるMHDKatie Jacobsによるスピーチでディナーは幕を開けました。フルコースは、広尾のアロニエ・ド・タカザワの高沢シェフが担当。視覚にも味覚にも驚きと喜びに満ちた料理の数々が供されます。メインコースが供される直前、Katieは改めてバルーンヴィーナスについての説明をしました。彫刻としても、Dom Pérignonのボトルケースとしても機能するオブジェ。

ディナーの折り返し地点であり、クライマックスでもあるこの瞬間、スポットライトがヴィーナスに当たります。ホストであるGaku氏が白いグローブをはめ、厳かでドラマティックな音楽の中、ヴィーナスを開く儀式が行われました。この瞬間、会場の照明はうっすらとピンク色に変化します。場の雰囲気の高揚、人の顔の紅潮を映し出すかのようです。緑色の空気に包まれた会場は、この時からピンク色に満たされています。また、供されるシャンパンも、Blanc2004からRose2003に切り替わりました。

ゲストは一度席から立ち、ヴィーナスを仔細に観察します。On the Fly テーブルには、ブックレット型の紙が用意されました。ブックレットを開くと、Jeff Koons、ヴィーナス、そしてDom Pérignonのヴィンテージについての紹介が美しい写真とともに表示されます。実際に手で触れて、楽しみながら歴史や哲学に触れることができる仕掛けです。コンテンツはもちろんのことですが、ゲストは皆、このインタラクティブな仕掛けそのものにも、大いに魅了されていました。メインコース、デザート、コーヒーと続き、時が来てもゲスト達は名残惜しさの中この部屋に暫く居座りました。

イベントを振り返って:コミュニケーションや体験の創出

一晩限りのイベントとはいえ、そこに込められた情熱、緻密さ、哲学は非常に高いものでした。ヴィンテージを重んじるDom Pérignonが持つクリエイティビティの神髄が現れています。クリエイティブチーム全体の力と、ゲストのコリジョンが、一期一会の「紅潮する」時間と空間を作ったに違いありません。今回のイベントは、MHDの行ってきたイベントのなかでも特に高い評価を受けるに至っています。我々Takramはこのようにデザインエンジニアリング、ストーリー・ウィーヴィングといった技術を用い、人の心に触れるようなコミュニケーションや体験を創出していきたいと考えています。

Team

Creative Direction & Technical Direction:

Takram

Production & Operation:

Amano Creative Studio

Space Design & Management:

A4A

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