SELFORG

Future scenarios of biomimetic fiber technology, 2018

2018年に創業100周年を迎えた帝人株式会社のTHINK HUMAN EXHIBITIONという展覧会のために、未来の繊維テクノロジーをテーマとした展示作品を制作しました。温暖化によって環境の変化した未来で、生体模倣工学によって役割を拡大した“繊維”が人々の生活の中で“今とは異なった形”で活躍する様子を、ストーリーとイラストレーション・劇中に登場する素材や製品のモックアップによって描き出した作品です。

「迫り上がる海と、夜の世界で」

21世紀の後半には温暖化が引き起こす海面上昇によって陸地の水没が顕著に見られるようになりました。世界の大都市は東京も含めてその多くが沿岸にあり、水没が進行していく地域に建設されています。水没が進行した都市の一部地域では沿岸部を諦めて内陸部へと人が移動し、それに呼応する形で新たな都市エリアの建設ラッシュが起きています。 同時に、昼間の最高気温が40°Cを超え始めた頃、多くの人々は生活のコアタイムを日の出ていない夜間に移し始めました。暑すぎる日中に活動するのは非効率になり、遊びも仕事も夜間に行う人の割合が増えつつあります。温暖化を中心とした自然環境の変化により人間の社会も適応力を求められるようになったとき、社会の注目を集めたのは「バイオミメティクス」と呼ばれる考え方でした。

夜に湾岸の通学路を歩く子供たち

かつての湾岸工業地帯は海に沈み、遺跡クルージングのスポットとなっている

自己組織化

「バイオミメティクス」とは生物模倣、つまり生物に学ぶ姿勢を重視する考え方です。生態系の中にある仕組みや構造をテクノロジーとして再現しようとする取り組みが活発になり、 21世紀の中頃には自己組織化という現象を化学合成技術として再現することが可能になりました。

SELFORG 繊維の種

自己組織化の考え方に基づいて開発されたテクノロジーの一つにSELFORGというものがあります。微細な粒子を特定の環境に設置すると合成繊維が、まるで生えてくるように伸びるという化学合成技術です。植物の種子が発芽する様子に擬えられて「繊維の種」とも呼ばれています。種から伸びる繊維の素材や性質は化学的にデザインされていますが、最終的に伸びる量や性質の程度は蒔かれた環境によっても左右されます。

SELFORGの表面には、その粒子から生えてくる繊維の断面形状がグラフィカルに表示されており、顕微鏡で覗くとどういった繊維の粒子なのかが判別できるよう工夫されています。繊維の断面形状は繊維の持ち得る機能を大きく決定しています。

Sow It Yourself

SELFORGを採用した素材は、後述する都市整備の工事のために大量生産されたために価格も安くなり、一般の生活シーンでも使用されるようになりました。播いた場所の形状に合わせて繊維を伸ばし、絡み合ってから硬化する性質を付与されたタイプのものは破損箇所の修理や、何かを組み上げる際の接着剤代わりになりました。撥水性や撥油性、構造色などの機能性の構造を持った繊維の種は追加的に機能を付与するのに最適で、さまざまな製品にDIY的に蒔く人も多く見られます。SELFORGは一般の人々の間に蒔くという行為を定着させ、こうした「繊維の種」を蒔いてのモノづくりや機能追加を指してSIY(Sow It Yourselfの略語、DIY文化のオルタナティブ)と呼ぶことすら一般的になったのです。

ヤモリスプレー

一般家庭で使用されるスプレー型デバイス。スプレー缶の中には、接着力の高い脚先の構造を持つヤモリの脚先と同様の微細構造を持ったSELFORGが充填されており、吹き付けると極短い産毛のような繊維を伸ばします。

繊維の微細構造はある程度の起伏があるような面に対しても吸着力を発揮し、ペタペタと脱着が出来るので、ある程度の重量のモノであれば自由に壁や天井に付けることが出来ます。壁面に本や日用品を収納する用途に使う人が多いようです。

フクワ

繊維の種を入れるための多孔質構造を持ったリング型デバイスです。孔に種を蒔くと繊維が伸び始める仕組みになっています。

フクワに使用されるSELFORGは、伸び始めると自然に服の形になるようにデザインされており、ハンギングした状態で服の製造に利用され、衣服のセルフメイドを自宅のクローゼットで行う習慣を普及させました。また、人が着用したまま繊維を伸ばすことで体型に合った衣服を作る用途にも利用されています。

やわらかな世界へ

従来の都市計画では素材の耐久性や自動車の効率という観点から硬い素材の使用が続けられてきましたが、SELFORGテクノロジーを用いた自己修復機能を持った繊維素材の開発などによって柔らかい素材でも十分な冗長性が確保できるようになったこと、事故の際のダメージの軽減や素材の持つ質感の柔和さといった点が評価されたことによって、柔らかな素材が都市整備にも用いられるようになりました。

道路にSELFORGを吹き付けて柔らかな舗装を行う様子

内陸部の団地遺構にSELFORGを吹き付けてリノベーションを行う様子

大型吹付け機

道路工事や建設現場では大型の種蒔きデバイスが使用されます。既存の構造がある場所に上から播いて施工できるというメリットがあり、道路や信号、ガードレールなどに吹き付けて使用されています。また補修・補強に加えて表面機能の付与を目的として使用されることもあります。

柔軟な街並

新たな区画の設計思想として重視されたのは、環境負荷の低減によるサステナビリティの向上と、人間に対する負荷の低減でした。それ以前の都市設計では道路を硬いアスファルトで塗り固めて舗装し、剛性の高い金属で作った信号機やガードレールが路面に配置されることが当たり前でしたが、新たな都市設計ではこれらの素材が見直され、柔軟性や弾性に富んだ素材が多く採用されることになりました。

この背景には夜間行動の増加に比例して事故が増えたことがあります。こうした設計思想が主流となることで、SELFORG素材が街中の様々な構造物を覆うために使用される機会が増えたのです。

THINK HUMAN EXHIBITION

CREDIT

Client: TEIJIN
Project Management: Kitchen & Company
Creative Direction: Seitaro Taniguchi (Takram) 
Concept Development: Seitaro Taniguchi (Takram), Maki Ota (Takram),  Zijun Zhao (Takram) 
Product Design: Zijun Zhao (Takram) 
Illustration: Maki Ota (Takram)

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