社会課題を起点にビジョンからプロダクトまでの一気通貫したデザイン
Takramは、株式会社博報堂(以下博報堂)と共同で社会課題を起点として未来を創造していくことを目的としたジョイントプロジェクトを実施し、食品メーカーの協業により新しい備蓄食品「Gift&Stock(ギフトアンドストック)」の商品化を実現しました。
「Gift&Stock」は、おみやげの連鎖で社会の食料備蓄を増やすことをミッションとし、「大切な人にあげたくなる、部屋にもおきたくなる、おいしい備蓄」をコンセプトとして生まれた備蓄食品のブランドです。
社会課題を起点としたビジョンデザイン、コンセプト開発・プロダクトデザイン、ブランド開発・パッケージデザインなど、様々な専門性を横断することによって社会実装に至っています。
Takramと博報堂のプロジェクトチームは、両者が日常的に行っている委託型のデザイン業務や事業開発支援と異なるオーナー型のプロジェクトだからこそ取り組めるテーマで、かつ社会にとって有意義となるものをいかにチームが実現できるか、といった点に焦点を絞り、ゼロベースからディスカッションを重ねました。そしてチームが着目したのは災害備蓄と災害復興の課題です。
日本は地震をはじめとした自然災害が多く発生する国ですが、内閣府の防災情報によると、大規模災害に備えるためには、家庭での食料備蓄の量は一週間分あることが望ましいとされています。一方、これを満たす備蓄ができている人は全国でわずか25%程度に留まることがわかり、プロジェクトでは社会の中の食料備蓄を増やすことがミッションの一つとなりました。
社会の中の食料備蓄を増やし、社会全体で災害に強い未来を目指すためには、災害に対する理解や啓蒙も重要ですが、それだけでは行き届きづらい世帯にも備蓄が行き渡るための仕組みや、日常生活でも備蓄が受け入れやすくなる工夫も重要だと考えました。
家庭ごとの備蓄の実現は、本人や家族の強い意思があれば実現が容易です。しかし、備蓄の意思のない世帯で備蓄を実現していくためには、第三者の意思を介在することが有効です。「Gift&Stock」は、「大切な人にあげたくなる」備蓄食品として、お土産やギフトとして選ばれることを想定してデザインされました。人から人へ交わされていくことで社会に食料備蓄が行き渡ることを狙います。
また、家の中に食料の備蓄がされたとしても、収納棚や床下などの手の届きづらい場所に仕舞われてしまうと、地震後に取り出しづらくなったり、収納場所がわからなくなったりするなど、備蓄食品が実際には使用できなくなる場合があります。「Gift&Stock」は、「部屋にもおきたくなる」備蓄食品として、受け取った人のリビングやダイニングなどの日常的に目にする場所に置かれ、インテリアを彩ることを前提にデザインされ、備蓄食品へのアクセス率を高めることを狙っています。
食品としての美味しさは、お土産やギフトであっても、非常時であっても、その時の体験を少しでも良くしていくために重要な要素と考えます。「Gift&Stock」は、非常時に限らずいつ食べても「おいしい備蓄」を目指し、ファーストプロダクトとして岩手缶詰と協業し「魚介のリゾット缶3種」の商品化を実現しました。
「Gift&Stock」は、いちメーカーのブランドではなく、全国の様々なメーカーの美味しい備蓄食品を束ねることのできるライセンスブランドです。地域の魅力ある食材や備蓄として優れた食材、備蓄食品の優れた加工・生産技術を持つ全国の食品メーカーから、「Gift&Stock」ブランドとしての商品展開が可能です。
災害復興で重要なのは、単発的な支援だけでなく持続した経済活動が生まれることです。災害復興を必要とする地域の企業から、その地域の特産物の魅力を生かした備蓄食品が生産され、お土産として全国へ行き渡る仕組みができれば、災害に強い社会をつくることにつながると考えます。
現在、備蓄食品のカテゴリーは一般的に二つに分類されています。ひとつは「非常食」と呼ばれるもので、カンパンなど、災害時の備えとして備蓄し、主に災害時に使用するもの、もうひとつは「日常食品」に分類されるもので、レトルトカレーなどの、日常から使用し、かつ災害時にも使用できるものです。
今回目指した備蓄食品は、お土産やギフトとして交わされ、日常の少し特別なタイミングで開封したり、かつ災害時にも使用するもので、従来の備蓄食品のいずれのカテゴリーにも該当しないと考えました。プロジェクトでは、これを備蓄食品の新たなカテゴリとして「みやげ備食」呼んでいます。
プロジェクトチームは、プロジェクトのミッションに賛同いただき、「Gift&Stock」の商品化を共に実現していくパートナーを募りました。その中で、岩手県釜石市の食品メーカーである岩手缶詰との協業が決まり、食品の開発と時期を並行し、クラウドファンディングを起爆剤としたプロダクトの立ち上げを実施しました。クラウドファンディングは目標額を達成し、商品の発売に至っています。
Takram
,Hakuhodo Inc.
Shinya Sato (Shinya Sato Photography Office)
Yosuke Mochizuki (tecono.inc)